ハイドロキノンと聞くと、何やらシミに効果ありそうですよね。
ただ、この点に関して医学的な見地をお伝えすると、「ハイドロキノンはあくまで新しいシミが作り出されないようにする予防のためのものであって、
そのため、もしハイドロキノンのみ単体で使って、皮膚の奥の方にできてしまっているシミを消そうと考えているのであれば、ほぼ不可能と言えます。
このような内容も含めて、ハイドロキノンについては様々な誤解なども多いため、ハイドロキノンは本当に効果があるのか、その効能の実際について当ページではお伝えしていきます。
◆Contents
ハイドロキノンとは
ハイドロキノンは元々、写真の現像のために使用されていた化学物質で、写真の現像をする写真屋の手が白いことから注目されるようになって、美白作用があると広がりました。
そして、ハイドロキノンの研究が進んだ結果、新たなシミができるのを抑える作用があるということがわかり、シミ治療の現場、さらには化粧品にもよく使われるようになりました。
ハイドロキノンはいかに作用するか
そして、ハイドロキノンの「新たなシミが作り出されるのを抑える作用」は、具体的にはチロシナーゼ阻害作用と言います。
ただ、専門用語が出てくると途端にわからなくなるため、以下のイメージ図で説明します。
ハイドロキノンの作用(チロシナーゼ阻害作用のイメージ図)
ハイドロキノンの作用の仕組みとしては、メラニン(シミの元)になる前段階の物質がシミになるのを促進させる「チロシナーゼ」という体内酵素があるのですが、そのシミになるのを促進させるチロシナーゼの働きを阻害してメラニンにならないようにするのがハイドロキノンです。
活性酸素で活発化するチロシナーゼの働き
そして、チロシナーゼは活性酸素の発生を受けて活発化します。
活性酸素とは、例で言うとリンゴの皮をむいて空気にさらしておくと茶色く変色するように、人間の体も錆びる現象が起きるのに関係するものです。(*2)
また、活性酸素は、紫外線、放射線、ストレス、便秘、タバコ、排気ガス、アルコール、過度な運動、感染・炎症などによって増えると言われています。(*2)
そのため、シミができるメカニズムとして一般的に活性酸素によってシミができると言われることがありますが、実際は活性酸素によってチロシナーゼが活発化することによってシミができやすくなると言う方が正しい理解といえます。
そもそもなぜチロシナーゼはシミをつくるのか?
こうして見ていると、ふつふつと疑問にわいてくるのは、そもそもチロシナーゼという体内酵素はなぜ、わざわざシミを作るようなことをするのかということです。
シミを作る働きをする酵素というと、シミに悩む世の女性たちから「シミを作るなんて、チロシナーゼは余計なことするな!」と総スカンを食らいそうですが、結論から言うと必要だからシミはつくられるのです。
ハイドロキノンで皮膚がんになる確率が高まる?
人は紫外線を浴びると、皮膚にある細胞の設計図(DNA)が壊されてしまうため、その結果として皮膚がんになる可能性が高まります。
そこで、人体にとって有害である紫外線から体を守るために、紫外線に対するフィルターのような働きをするメラニン(シミの元)が作られます。
つまり、紫外線から体を守る(シミを作る)ためにチロシナーゼは働く形となります。
ところが、一方でアルビノと呼ばれる人や動物などは、メラニンをうまく生成することができないことから、皮膚がんになりやすいと言われています。
アルビノの猫、皮膚がんになりやすいと言われている
つまり、本来であれば、皮膚がんから体を守るためにメラニンが作られるのが、この紫外線を防ぐための働きをハイドロキノンは阻害するため、ハイドロキノンは皮膚がんになる可能性を高めると言えます。
ハイドロキノンを使う以上、紫外線防御は絶対に必要
そして、前述のアルビノの例で説明した通り、ハイドロキノンを使用するとメラニンの生成が抑えられるため、人体は紫外線の害を直接受けることとなります。
そのため、ハイドロキノンを使う以上は、ハイドロキノンを使う前以上に紫外線防御をすることは絶対に必要となります。
なぜならば、スプレータイプはUV測定試験に掛けられる際、スプレーの原液を皮膚に直接塗布するような、本来の使い方とは違う形で測定しています。そのため、スプレーで塗布する形では十分な紫外線予防効果が出ないからです。
ハイドロキノンの還元作用でシミが薄くなるって本当?
ネット上でハイドロキノンのことを調べていると、ハイドロキノンの還元作用で既存のシミがうすくなるというようなことが書かれていることがあります。
しかし、還元作用で既存のシミがうすくなるというのは疑問です。
なぜならば、還元作用とは物質に付いた酸素を引きはがすという物理的かつ科学的な作用でしかないため、ハイドロキノンを表皮に塗るくらいで皮膚の奥深くにあるメラニンにまで直接影響を及ぼせるかというと疑問であるためです。
この点については、以下の10円玉を見て頂くとわかりやすいです。
これは、古くなった10円玉と、その10円玉にハイドロキノンを塗って1日置いたものです。
塗り方にムラがありますが、ハイドロキノンが塗られた部分が元のピカピカの10円玉に近づいているのがわかります。これが「還元作用」で、酸化の反対の作用となります。
酸化が年月とともに酸素と結合してくすんでいくのに対して、還元作用はその結合した酸素を引きはがす作用となります。つまり、還元作用とは物理的かつ科学的な作用でしかありません。
このように考えると、皮膚の表面にハイドロキノンを単に塗っても、シミとなっている皮膚の深いところにあるメラニンまでハイドロキノンが届くことは難しいため、ハイドロキノン単体を用いてシミ自体がうすくなるというのは考えにくいです。
むしろ逆に、ハイドロキノンによって皮膚の表面が白く見えるようになったため、結果的に皮膚の奥にあるシミ自体がより濃く浮き上がって見えるようになってしまったというケースがよく聞かれます。
ハイドロキノンのみを使ったシミ消しは気の長い話
また、既にできてしまったシミに対して、
そのため、ハイドロキノンのみを用いて既にできてしまったシミを排出できるとしても、自分の体の新陳代謝による
この肌の新陳代謝に関して言えば、新陳代謝(ターンオーバー)が活発な20代ではおよそ1か月程度で肌が生まれ変わりますが、年齢が上がるとターンオーバーの期間は長くなるため、
新陳代謝だけでは、皮膚の奥にあるシミは排出されない
また、自分の肌の新陳代謝を信じてひたすらシミが排出されるのを待てば、いつかはシミが消えるのかというと疑問な点もあります。
この点については、専門家も「真皮内の色素沈着は簡単に変わらない(*4)」と述べていますが、わかりやすいのは入れ墨の例です。
皮膚に入れた入れ墨がいつまで経っても体の外に排出されないように、ある程度皮膚の深いところで固着してしまったシミはいつまで経っても排出されません。
従って、既にできてしまったシミに対してハイドロキノンを用いるだけでシミを消すのは、かなり厳しいのが実情です。
美容皮膚科では実際、ハイドロキノンは脇役的に使われている
ところで、美容皮膚科では、ハイドロキノンはどのような使われ方をしているのでしょうか?
化粧品の広告宣伝などで取り扱われているハイドロキノンを見ていると、さもシミ治療の主役として使われている印象があるかもしれませんが、実際はハイドロキノンは補助的な使われ方をされるのが多いです。
既にできてしまっているシミを消す主役としては、シミ取りレーザーで直接シミを焼くか、トレチノインという強い塗り薬でシミを排出する方法があります。
その際、シミ取りレーザーやトレチノインは、シミに対する効果が高いがゆえに皮膚に対してダメージを与えてしまうことがあります。(それだけ強い治療でないと皮膚の奥にできてしまったシミは中々消えません)
そして、そのダメージが元で「戻りシミ(炎症後色素沈着)」と呼ばれる新たなシミを生み出してしまうことがあるため、その戻りシミを抑えるためにハイドロキノンが補助的に使用されることが多いです。
つまり、シミ治療にハイドロキノンが用いられることは多いですが、それはあくまで新たなシミの発生を抑えるためで、既存のシミに対してアプローチするという観点から言えば、ハイドロキノンは脇役的な扱いとなります。
「ハイドロキノンでシミが消えた!」は、トレチノインが効いた可能性がある
塗り薬だけでシミを消そうとした場合には、ハイドロキノンはトレチノインと併用して使われることが多いです。
そのため、「ハイドロキノンでシミが消えた!」という話をよくよく聞くと、実はトレチノインと合わせて使っていたということがとても多く、「それ、ハイドロキノンじゃなくて正しくはトレチノインが効いたっていうことなんじゃないの?」というケースはとてもよくあります。
ただ、言葉としては圧倒的にハイドロキノンの方が有名な上、ハイドロキノンもトレチノインも違いを良くわからないで使っている人も多いため、結果的にハイドロキノンという言葉だけが先立って「ハイドロキノンでシミが消えた!」ということになっていることが考えられます。
化粧品として販売できるようになったハイドロキノン
それでは、なぜハイドロキノンは、あたかもシミ治療の主役のように「シミにはハイドロキノン!」と言われることが多いのでしょうか。
その背後には、化粧品会社によるイメージ戦略があります。
ハイドロキノンは2001年に化粧品として厚生労働省に認可されたことを受けて、化粧品として販売することができるようになりました。
ただ、化粧品は「人体に対する作用が緩和なものを言う(東京都健康安全研究センター)」と定義されている上に、医薬部外品も「治療というよりは防止・衛生を目的に作られている(花王株式会社)」ことから、それこそ「シミを消す」ような強い作用があっては化粧品・医薬部外品としては認可されません。
(従って、化粧品・医薬部外品として販売されているものは、全てシミを予防するものとなります。)
ただ、それだけでは商品としてなかなか売れないため、化粧品会社などが「シミが消える」雰囲気が出るようにグレーな広告表現をしている中で、一般消費者はハイドロキノンでシミが消えると思うようになり、ハイドロキノンに対する期待が過剰に膨らんでいったというのは十分に考えられます。
ハイドロキノンはどのように使ったらよいか
ここまで、ハイドロキノンがあくまでシミ予防のためのもので、シミを消すものではない点について記載してきましたが、ハイドロキノンが使い方によっては有用な塗り薬であることは間違いありません。
そこで、どのような理解のもと、どのようにハイドロキノンを使うのが良いのか、最後に結論をお伝えします。
ハイドロキノンは、シミができやすいタイミングで予防的に使う
もしハイドロキノンを使うのであれば、あくまでシミができやすいタイミングで予防的に一定期間だけ使用するのがバランスの良い使い方です。
レーザーやトレチノインを使ってシミ治療をした際は、戻りシミ(炎症後色素沈着)といってしばらくシミのような状況となる場合があるのは前述の通りですが、これらのシミ治療の際にできる可能性のある戻りシミを抑えるために、ある程度期間を区切ってハイドロキノンを使うのが、シミの予防という意味で本来のハイドロキノンの有効な使い方です。
この点については、ハイドロキノンは使用を中止して紫外線を浴びていると、数週間で元に戻ると言われており(*3)、さらに、ハイドロキノンは使っている間は紫外線に対する抵抗力を弱めてしまうため、ハイドロキノンを常用するのは紫外線による諸々のリスクを増大することに他ならないという理由があります。
そのため、ハイドロキノンは化粧品などで常用するのではなく、シミ治療時などあくまでシミができやすいタイミング・期間に限定して予防的に使用するのがバランスの良い使い方となります。
あまりハイドロキノンに依存しすぎず、過度に期待しすぎず、上手に活用するようにしてください。
すでにできてしまっているシミを消す場合には、クリニックへ
以上、ハイドロキノンについて、お伝えしてきました。
最後にまとめとなりますが、当ページとしてお伝えしたい結論は、「ハイドロキノンの広告・宣伝などに惑わされず、すでにできてしまっているシミを消す場合には、クリニックへ行ってください」ということです。
はじめからハイドロキノンを塗るだけで、いつかシミが消えるのではないかと考えていると、多くの時間を無駄にする可能性が高いです。
そのように、時間が経ってから後悔することがないように、シミはしっかりと専門の医師にかかって治療することをおすすめします。
そのための美容皮膚科選びや、レーザー治療に関する内容は、以下のページに記載してあるため、参考にしてみてください。
Q&A
Q 乳首や性器の黒ずみにハイドロキノンが有効であると聞いたのですが。
A 実は顔のシミも同様ですが、皮膚の「こすりすぎ」や摩擦によって皮膚の炎症が引き起こされ、結果としてシミになっているケースは非常に多いです。そのような「こすりすぎ」によって乳首や性器の黒ずみが発生しているのであれば、そもそもその「こすりすぎ」の原因となる生活習慣やクセなどを見直す必要があります。その上で、「こすりすぎ」が原因としてあるのであれば、肝斑と呼ばれる女性に多いシミの症状にも効果があるトラネキサム酸の使用からはじめる方がリスクは少なく効果が見込まれます。なぜならば、肝斑は化粧やスキンケア、洗顔などによる肌の「こすりすぎ」を起因とした肌のバリア機能の低下によって引き起こされているものであるためです。従って、もし乳首や性器の黒ずみが「こすりすぎ」を原因としているのであれば、同じく肌の「こすりすぎ」を原因とする肝斑に効果があるトラネキサム酸が効果を発揮する可能性はあります。
参考文献
(*1)青木律 炎症後色素沈着の治療 『形成外科』 50(1):63~69, 2007
(*2)山下理恵 若く見える人に備わっているアンチエイジング能力 『COSMETIC STAGE』 Vol.9, No.1 2014
(*3)渡辺晋一 肝斑の診断と治療 『形成外科』 57(10):1085~1092,2014
(*4)吉村浩太郎 外用治療の選択:何をどう使うか 『PEPARS』 No.110:22-26,2016